IC カードは、急速に我々の日常生活に浸透してきているハイテク技術だ。今や IC カードは、生活の中で様々な分野で利用されている。電車やバスに乗るための乗車カード、企業などの身分証、コンビニで使用できる電子マネー、携帯電話の電子決済にも IC カードのチップが利用されているほどだ。 最近では、日本マクドナルドがケータイにダウンロードしたクーポンをレジにかざすことで、商品が注文できる新型のクーポンの導入を発表している。
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これほど急速に普及した「IC カード」は、どのような技術が使われているのか、またどうしてこれほどまでに利用されるようになったのであろうか。IC カードを理解するために、IC カードの歴史と技術をみてみよう。
■世界初のICカードは?
世界初の IC カードは、1970年代後半に誕生したといわれている。当初のカードは CPU を搭載し、単体で演算処理を行える能力を搭載していた。製品版としては、ブルとモトローラがメモリーカードやマイコンカードを開発しており、これが一般に普及した初めてのICカードとなったようだ。
■特許で億万長者が誕生
日本では1970年、有村国孝氏が IC カードを発明。当時、古河電工を退職して渡米した有村氏は、日本より進んでいたカード社会を目の当たりにし、記憶容量が小さい磁気カードでは将来の需要に対応できなくなると考え、IC カードの基本特許を取得している。
●有村国孝氏が取得した特許
「能動素子を含み外部からの入力に応答して識別用の新たな信号を発生する集積回路を識別装置として本体に埋設して成る識別カード」
特許を取得した当時は、磁気カードが主流の時代であり同特許の注目度は低かったが、のちにICチップの価格が下がりICカードの登場ともに注目された。1980年代後半から特許の期限が切れるまでライセンス料は当時の金額で数億円とも数百億円ともいわれているほどの金額となったという。
・基本特許の『法則』 - 鯨田 雅信 の 知的財産 ビジネス 研究室
■IC カードの種類とそれを支える技術
IC カードは接触型 IC カードと非接触型ICカード、ハイブリッドIC カードの3種類に大別できる。
●接触型 IC カード
もっとも一般的な IC カード。記憶できる情報量が大きく、1Mバイトを超えるカードも存在する。キャッシュカードやクレジットカード、銀行カードなど、セキュリティが重視される用途に使用される。
接触型 IC カードは、プラスチック板の表面に電極が剥き出しのICチップを内蔵している。接触型ICカード用リーダー/ライターに同カードを挿入すると、IC カード表面の電極から IC チップ内の情報を読み書きできる。
●非接触型ICカード
接触型 IC カードの操作性を向上させた IC カード。Suica や PASMO などの定期券、Edy などの電子マネーに使用されている。
非接触型 IC カードは、カードの内側に IC チップを備える。カードの表面からは見えないが、コイル式アンテナが仕込まれており IC チップに接続されている。駅の改札やコンビニエンスストアのレジなどで見られる非接触型 IC カード用リーダー/ライターにカードをかざすとカード内のアンテナがリーダー/ライターの電磁波からのエネルギーを電気に変えて無線によるデータの送受信が行える。
もう少し詳しく説明しよう。Suica や PASMO、Edy などの非接触型 IC カードは、ソニーが開発した「FeliCa(フェリカ)」の技術を利用している。FeliCa カードには、CPU や OS が組み込まれており同カード専用のリーダー/ライターにかざすと、電磁誘導により電力が発生してカード内の CPU が動き出してリーダー/ライターからの問い合わせに反応する。 具体的には、FeliCa カード内の抵抗値を変化させてリーダー/ライターから送信される電波に強弱をつけて反射することでデータとしてやり取りするのだ。
ここで「おや!?」と思った人は、かなり電磁気に詳しい人だ。非接触型 IC カードが電磁誘導を利用した最大の理由は接触しないで電力を得られる点にあるのだが、カードとリーダー/ライターの接触位置の違いで起電力には差が生じてしまうという難点あるのだ。
しかし、心配はいらない。FeliCa カードは突然電力が遮断された場合でも復帰が可能であり、もっとも低い電圧でも CPU が動作するように設計されているのだ。その結果として電力不足であっても誤動作がなく、大事なデータを扱うカードとして安心して使用できるという訳だ。
●ハイブリッドICカード
「ハイブリットカード」とも呼ばれる。前述の接触型ICカードと非接触型ICカードの両方のICチップを内蔵している。
■ICカードの現状と未来
ICカードの現状はどうなのか。カードで我々の生活はどう変わるのかをみてみよう。
●磁気カードから IC カードへ
ICカードは、磁気カードに比べて記憶容量が大きく扱いやすい。これまで磁気カードが使用されていた分野で急速に代替えシステムとして普及しはじめている。
たとえば、磁気カードで提供されていた鉄道の乗車券をICカード化したものが「Suica」や「PASMO」だ。今日では電子マネーの決済機能も備えている。変造しづらいことも特徴で、銀行カードを磁気カードから IC カードに変更した銀行も多い。
日本でもっとも普及している FeliCa などの IC カードの技術は国内だけでなく、世界でも注目されている。香港オクトパス社では1997年に FeliCa カードを導入しており、シンガポールや中国シンセン、インド、タイなどの公共交通機関で FeliCa カードを採用している。ソニーの発表では FeliCa カードに使用されている FeliCa IC チップは累計2億5千万個出荷されている。
●ICパスポートも登場
外務省は、2006年3月20日よりICチップを内蔵した「ICパスポート(IC旅券)」の発行を開始した。パスポート取得者の国籍や名前、生年月日、顔写真をICチップが記憶しており、これまで以上に変造や偽造が困難なものとなっている。
今後、各国の出入国審査などでICチップに記録された顔写真とその旅券を提示した人物の顔を照合することで、顔写真を貼り替えたパスポートによる「なりすまし」などの不正使用の防止が期待されている。
IC カードの技術は、情報のやり取りに便利なだけでなくセキュリティの高さの面でも評価されている。現在の IC カードは、今のICカードを超える新しい技術が登場しない限り、これからも我々の生活に密接に浸透していくことはまず間違いないであろう。